大人を、ギャフンと言わせて欲しい。 福田敏也

日本人として、初めてカンヌのサイバーライオンで受賞。日本のWeb広告を草創期から走り続けてきた福田敏也さん(777interactive:主な作品はこちら)。現在は、武蔵野美術大学、多摩美術大学でWebデザインを教えてもいらっしゃいます。その福田さんに、現在のWeb広告の現状と「1-click Award」に期待することを伺いました。

インタラクティブな『方法』を
作る仕事が増えています。

────まずは、福田さんの最近のお仕事について、伺いたいのですが。

最近は、「インタラクティブなメディアコンテンツを作る」だけではなくて、「インタラクティブな方法を作る」ことが増えていますね。わかりやすい例でいえば、昨年末の『akarium Call Project』(電話して、メッセージを伝えると、12月の表参道を包むイルミネーションの色や強さが変わるという、モバイルネットワーク型イルミネーションイベント。WEB上に設置したライブカムによって、日本中、世界中、どこにいても誰でも参加することができた)。この時のキーメディアは、Webよりも、電話とイルミネーションです。そのような場合、Web以前の企画や全体設計からWebクリエイターも参加します。どうしたら人の心を動かせるのか、良質なコミュニケーションが成立するのか。そこから考えるわけです。他の仕事でも、そういうことは多いですね。

Webというところに閉じないこと。

────なるほど。Webコンテンツを作ることだけが仕事、ではないのですね。

そうですね。「提供するサービスやコンテンツがおもしろいかどうか、ユーザーバリューがあるかどうか」が、今のWebではとても大切。体験やバリューのあり方を、真剣に掘りさげて考えることが大切です。『Nike+』とか見ていると、デザインもちゃんとしていますが、そもそもウェブサービスとしての思想がとても新しい。その軸がきちんと太ければ、使用技術やデザイン、コンテンツはおのずと決まります。

────もう、単なるWebクリエイターではない、ということですか。

というよりも、Webクリエイティブで、Webに閉じた考え方を前提にしないほうがいい。Webを使うのは「人」。そして、人が求める情報は、もともとWebの外にあるものです。それなら、Webは「人」と「情報」を上手につなげる何か、であればいい。そのインターフェイスを作るのが、Webクリエイターの仕事です。だから、実は「Web以外=情報」をどう扱うかを考えることが、デザインや技術と同じくらい大事なんです。

クリックする時の、気持ちの環境設定が大事。

────では、その中で、『クリック』という行為はどう捉えればいいのでしょうか。

クリックすると、今までは客体情報だったものが、その瞬間に『自分の情報』になります。そういう変化が起こる。すると、クリックする前と後では、少なからず気分も変わります。自分の情報になったとたんに、その情報の意味が劇的に変わることもあります。そう考えれば、僕たちが注意しなくてはいけないのは、クリック前に見る人がどんな気持ちでいるか。クリックしたらどんな気持ちになるのか、そのギャップの設計。一言で言えば、「気持ちの環境設定」をデザインすることです。

────その「変化」を上手に利用している例を教えていただきたいのですが。

例えば、昔カンヌのサイバーライオンで高い評価を受けたもので、女性の乳房が出ているバナーがありました。そして、乳房の脇に「click!」と出る。クリックすると、今度は違う場所に出る。何回かクリックすると、コピーが出てきます。「この行為をしなかったために、乳がんで多くの方が命を落としました」という意味のコピーです。乳がん患者をサポートするNGOのバナーでした。これなんかは見事でしたね。ちょっとした好奇心とスケベ心でクリックしていくと、ものすごいシリアスな現実が突きつけられる。「クリック」には、このくらい、人の気持ちを変えられる可能性が潜んでいます。

考え方を、考えて下さい。

────そのバナーはすごいですね。
応募される方には、それに負けない作品を期待したいと思いますが、
福田さんは、この「1-click Award」にどんな作品を期待していますか。

クリックを、どう考えるか。その考え方を追求して欲しいですね。例えば、クリックを「扉」とか「スイッチ」と見立てるのは、ごく普通の考え方。そうではなくて、『akarium Call Project』の電話のように、クリックを何かの「体験の入り口」と置き換えることもできます。さっき紹介したバナーのように、シンプルな手法でもクリックという行為の意味を裏切ることで驚きがうまれます。技術的に新しいかどうかより、クリックという行為に対する「考え方が新しいかどうか」が、特にこの「1-click Award」では問われるでしょうね。今までのWebクリエイティブのことなんて、気にする必要はありません。大人のやることはつまんない、という心意気で望んでもらいたい。ぜひ、僕たちをギャフンと言わせるようなものを作り上げて欲しいですね。

福田敏也
777interactive
トリプルセブン・インタラクティブ代表取締役/クリエイティブディレクター
武蔵野美術大学非常勤講師/多摩美術大学非常勤講師

1982年、博報堂入社とともに制作局に配属。CMプランナーとして数多くの国内企業のCM制作にたずさわったのち、1995年博報堂電脳体設立とともにネットクリエイティブの世界へ。「お年玉くじつき電子年賀状」「デスクトップ伝言ツール・ペタろう」などのコンテンツ型ネット広告商品を企画開発。1999年からは、クリエイティブディレクターとしてネット広告の前線で活動。2003年独立し、トリプルセブン・インタラクティブをスタート。以降、多種多様な広告主のネットコミュニケーション活動をサポートしている。カンヌ国際広告祭金賞、NY Oneshow金賞、東京インタラクティブアドアワード金賞など、国内外広告賞受賞多数。多摩美、武蔵美、宣伝会議などで講師をつとめるほか、777塾というインタラクティブクリエイティブの私塾を開くなど、後進の育成に積極的にかかわっている。